▼作家の向田邦子には〈仕事も恋も家庭も、どれを取っても八方塞(ふさ)がり〉の時期があった。20代後半と思われるその頃をエッセーで振り返っている

 ▼クリスマスの夜である。ケーキの包みを手に電車に乗ると周りにも同じような人たちがいて、自分のものが一番小さいように見えた。降りる間際、網棚に置き忘れてあった大きな箱に気付き、ほんの一瞬、取り換えようかと思ったという

 ▼小さな包みを哀れんだ神様の余興か-。暗いホームで声を立てて笑い、不意に涙があふれた。回想は、昭和30年代には聖夜に家族でケーキを囲むのが定番となっていたことを映してもいる

 ▼ことし食卓に並ぶ大きさに影響するだろうか。クリスマスケーキが値上がりしている。帝国データバンクの調査によると、標準サイズの平均価格は昨年より325円高い4468円。卵に砂糖、牛乳、バター、イチゴといった原材料が軒並み高騰したのが要因だ

 ▼中でも卵は、先月から国内で鳥インフルエンザが相次いで発生し、品薄状態の再来と価格の上昇が心配されている。近県でも感染が確認されたことから、県は養鶏場に消毒を促すなど警戒を強めている

 ▼調査は、コロナ明けで財布のひもが緩むのを期待する業者と値上げ疲れの消費者、双方の動きに注目している。さてどんなケーキを選ぼうか。家族で囲むのも仲間と楽しむのも、もちろん1人で味わうのもいい。