社会の紛争を解決する民事訴訟は、救済を通して私たちに進むべき一つの道を提案する。それは世相の縮図でもある。元裁判官で弁護士の原道子さん(66)=群馬県桐生市出身=は「事件への愛」を胸に、東京電力福島第1原発事故や世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る訴訟に向き合った。

はら・みちこ 1957年生まれ。神奈川・厚木高―慶応大法学部卒。85年に裁判官任官。前橋地裁の部総括判事、新潟家裁所長などを経て、2022年10月に水戸家裁所長で定年退官した。同年12月、東京弁護士会に弁護士登録し、現在は離婚事件を中心に手がける。

 ―前橋地裁で2013~17年、原発事故の本県への避難者が国と東京電力に損害賠償を求めた集団訴訟を指揮。原告137人それぞれの主張に耳を傾けた。

 まず被害の実態を全て見渡したいと思いました。それには全員の事実認定が必要だと考えました。生の事実として原告が「こんなひどい目に遭いました」と言っていることを、証拠上認められるか確かめました。

 全員に陳述書を出してもらい、家族ごとに少なくとも1人を代表で尋問しました。個別の事情を事実認定し、慰謝料の額を検討しました。137人という数は一人一人を個別に審理できる上限ぎりぎりでした。1000人や2000人だったら抽出尋問にしたかもしれません。

 ―16年5月、福島県を視察した。

 私は現場主義です。現地に行って無駄だったことは一度もない。行けば何か分かるはずだと思いました。

 福島でタクシーの運転手が道に迷いました。周囲は「カーナビがあるから大丈夫」と言っていました。でも、立ち入りが制限された区域は地図情報が更新されていない。だから迷子になった。福島で暮らした原告に近いはずの代理人も証拠提出した現地調査の記録映像の中で、同じ場所で迷っていました。そういう場所なのだと実感できました。

 ―全国の同種訴訟で提訴は9番目だが、17年3月に最も早く判決を出した。

 早く進めるのは責務だと思っていました。裁判迅速化法では、一審は2年以内の判決を促しています。原発事故は原子力損害の時効に関する特例法の中で早期救済に向けた努力を定めています。法を作った国会は早期の終結を求めていると私は理解しました。

 原発事故の真実は、審理中には分からないと思っていました。いまだに原発内部の様子は分かりませんよね。数十年後に判明するかもしれませんが、それを待っていたら誰も救済されない。とことん真実を明らかにするより、早く賠償責任を認める方が重要だという法の趣旨をくみ取り、結論を出しました。...